「アアナッテ、コウナッタ」~わたくしの履歴書~ 小池玲子ブログ

第11話 大人の対応に心うたれる

2020.01.01

短大の生活は灰色だった。

短大の生活を楽しむ同級生の女の子たち。この年の2年の差は重い。
何の問題もなく青春を楽しんでいる様に見えた。
心に雲がかかった2年間であった。
 

短大時代、京都で。
 
最終学年の夏は東京オリンピック開催の年であった。
課題を製作し、大きなパネルを持ってトボトボ歩く、残暑のアスファルト、吉祥寺の裏道、なぜか人通りがない。家々の窓から競技場の歓声が聞こえてきた。あ、今オリンピックをやっているのだ。
これが私の東京オリンピックの記憶だ。
   

グレーの短大時代でも時々光がさした時もある。 
 
就職活動が始まる2年目の夏に、友人の紹介で電通の偉い人に会った。私の就職の希望を聞いてその方はこんな風に答えた。『広告の仕事?せめて芸大でもでていれば可能性はあるけど、短大じゃね。受付の仕事ならどうにかなるかも。』
     

 
秋になって就職活動が始まり、私は運良くオンワードに内定が決まった。
しかし、自分の心の奥深く「このままで良いのか」という声が聞こえていた。このまま卒業し、就職して、結婚する自分でいいのか、やり残したことはないのか、人生は一度だけ。なら、やはり自分の望んだことをしたい。
  
たまたま父と口喧嘩をした時、父の言葉が胸に突き刺さった。
「自分の望む学校にも行けないくせに親に口答えができるのか!」この言葉が私の背中を押した。これが最後のチャンス。私は親に内緒で受験勉強を再び始めた。


親に内緒で定期を買い友人の家でデッサンの勉強。
 

 
幸い最終試験まで残り、合格発表は自分で見にゆく勇気がなく、親友の弟が見に行ってくれた。青山の喫茶店で結果を待った。自宅に合格の知らせを告げると、父の一言は「入学は許すが、卒業したらすぐに結婚。」であった。
 

 

芸大入学通知。親に内緒だったので友達の家から願書を出した。

 
就職先のオンワードには同時に入社した友人が事情を話してくれた。その時、忘れもしない感動的なことが起こった。私を面接した人事部長さんから丁寧な手紙をいただいたのだ。内容は芸大をチャレンジした私にエールを送ってくださっていたのだ。
 
恥ずかしいことに、合格の喜びで浮かれていた私は返事も出していない。だが、この手紙は私に、大人の持つ素晴らしい大きな優しさを、懐の深さを私に教えてくれた。
  
この手紙は今も大切に手元にある。
当時面接を受けた、オンワードの会社があった高速沿いのビル。高速道路を通るたび、この暖かい手紙を思い出す。