「アアナッテ、コウナッタ」~わたくしの履歴書~ 小池玲子ブログ

第18話 アイデアは何?

2020.04.15

素晴らしい環境に感動してスタートした、新しい職場。
しかしそれは同時に、広告に対する学びの始まりであった。

それまでの私は、自分の感覚に基づいて制作してきた。
私の頭の中には、それなりに組織だった考えはあったのだが、ここにきて、広告の理論的な考え方の基礎を教わることになった。


入社して一週間は、毎日2時間くらい会社についてのレクチャーがあった。


JWTの偉大な先輩、ジェームス・W・ヤングの「アイデアの作り方」。
この小冊子は全社員に配られた。
※JWT:ジェイ・ウォルター・トンプソン・ジャパン


今井茂雄氏による翻訳本は、1998年TBSブリタニアから出版。


前の会社でも入社後就業規則などについての説明はあったが、今回は全く違った。
今考えると、広告というサービスについて、どのように考えているか、トンプソンが持つ理論の説明であった。

その頃の私は次々と出てくる英語の単語に惑わされて、さっぱり理解ができず、ちんぷんかんぷんであった。今考えると、広告業界の中で、トンプソンというブランドがどのようにして成り立っているかの説明であったと思う。

当時全く知られていなかった、消費者調査に基づく戦略の立て方など、まさに大学の授業を聞いているようだった。
 
70年代のはじめ、まだ街にはブランドという言葉さえなかった時代のことだ。
 




社員も少なくみんな若かった。休みの日には渓谷でバーベキューを楽しんだりした。



なんと労働組合まであった。初めて組合員になった。
「夏のボーナス要求貫徹」ハチマキは締めてもみんな明るかった。


入社してしばらく経ったある日、私は新聞広告の制作を依頼された。新聞は業界紙。
「なんだ、業界紙か」と思った私は、与えられた情報をもとに、今までの感覚でレイアウトを3点用意し、営業に見せた。
 
しかし、それを見せた時の営業の言葉は辛辣であった。
 
私がプレゼンした営業は50代?いやもっと上か、小柄なおじさんだった。
かっこいいスーツに身をかためた、日本人かアメリカ人か一見わからないような、日に焼けた紳士。
 
彼はレイアウトを見た後、私に向かってこう聞いた。
「アイデアは何?」
私は言葉に詰まった。
「これはただのレイアウトじゃないか。何を表現したいか、何を伝えたいかが分からないな。」
 
それまで私が、自分の仕事を上司に見せた時の反応は、「この文字ちょっと小さく」とか「ヘッドラインはこちらに置いたら」などという、表現の助言のみであった。

こんな根本的なことをズバリ追求されたのは初めてであった。

私は打ちのめされた。
私が今までやってきたことが全否定された感じであった。

「アイデア」それは何か?
私は自信を失って一晩二晩考えた。
次のレイアウトを見せるために、何をしなければならないだろう?

これが理論的な考えへのスタートであった。
どんな小さな広告でも、そこにはアイデアが必要なのだと。

そして人に自分の制作物をプレゼンする場合は、制作意図を明確に説明してゆかなければ伝わらないということを。