「アアナッテ、コウナッタ」~わたくしの履歴書~ 小池玲子ブログ

第24話 スイートテンダイヤモンドの奇跡

2020.08.15

1987年、日本は空前の好景気を迎えていた。
街ゆく女性たちはブランドのドレスを着こなし、おしゃれを楽しんでいた。
  
しかしそんな中、通勤電車の中で、アフターファイブで、ダイヤモンドのジュエリーをつけている女性は皆無だった。
  
もちろんその頃のダイヤモンドの価格が高かったせいもあるが、一つは、婚約指輪のイメージが強かったこともある。一つ石の指輪は日常性がなかった。女性の多くはダイヤモンドの婚約指輪をタンスの中に大切にしまっておくという状況だった。
   
もっと多くの女性にダイヤモンドのジュエリーを日常的に楽しんでほしい、と私は願った。その頃は、婚約指輪を受け取っていない主婦が多数派だった。そんな彼女たちにダイヤモンドをつける喜びを味わってもらいたい、と。
  
ある日クライアントから耳よりなオファーが来た。「メレダイヤモンドの在庫が増えている。何か企画を考えてくれ。」と。メレダイヤモンドとは0.1カラット以下のダイヤモンド、その多くは0.01カラットで、悪く言えば、くずダイヤ、大きな宝石の周りを飾ったりするダイヤモンドだ。従ってそれ自体の価格は高くない。
  
これだ!と私は飛びついた。
このダイヤモンドを使うデザインならジュエリーの価格が抑えられる。結婚10年の記念日に10粒のダイヤモンドでデザインされたジュエリーはどうだろうか。

10粒のダイヤモンドを使ったデザインはプレゼン用に自分で考えた。毎日つけて心配しないデザイン。価格も10万円ぐらいに抑えたい。まだ愛情が冷えていない結婚10年目。だったら、と「スイートテン・ダイヤモンド」のネーミングはどうだろうか。

  
ロゴは10粒のダイヤモンドを使った。

しかし、10年の記念日についてクライアントはネガティブであった。結婚10年といえば家計が最も苦しい時。そんな時、ジュエリーを買う発想はないだろう、という。

いや10年は妻がまだ若い。
おしゃれを楽しみたい。
これが20年となると欲しいものが違ってくる、と私も反撃。

ネーミングについてもイギリス人の彼らからしたらスイートテンは変な英語に聞こえるらしくOKを取るのに苦労した。


TVCFは実在の夫婦を使い、2人の歴史を写真で見せながら、間にダイヤモンドが一つづつ増えてゆく映像とした。

このキャンペーンはTVCFが一つの番組で2年間放映されただけだった。その当時はバブルでたくさんのTVCFが流されていてその中に埋没して全く目立たなかった。と私は思った。が、調査によると短い期間で、驚くほどの認知度アップであった。

なぜだろう?
それはこんな話だ。例えば、代官山で仲良しの主婦同士がお茶をする。とその中の一人が、新しいダイヤモンドのネックレスをしている。目ざとく見つけた友達が、「あら、良いわね〜」言われた相手はちょっと自慢げに「これスイートテンダイヤモンドよ」「え、スイートテンダイヤモンドって?」「うち今年で10年目なの」夫に愛される幸せな妻・・・こんな感じで伝わって行ったのだ。
  
この企画で私は大いに勉強した。
消費者のニーズに合う企画は消費者が口コミで広めてくれることを。

なぜなら同じようなキャンペーンで、第一子が生まれた時に贈るエタニティリングキャンペーンは8年にわたり六本のTVCFを放映したにもかかわらず認知度は全く上がらず、その習慣も根付かなかったからだ。