「アアナッテ、コウナッタ」~わたくしの履歴書~ 小池玲子ブログ

第31話 外国人クライアントとの戦い

2020.12.01

私が制作局の長になることを決断したのは、
日本人の制作局長が必要と考えたことと、もう一つ理由があった。
  
その頃、社内に素晴らしいクリエーターがいらした。
その方の制作物は業界のトップレベルであった。彼は制作の局長になると私は思っていた。たまたまその方と廊下を歩いていた時、廊下の壁には社内で制作した制作物が貼られていた。彼はそれを指差して吐き捨てるように呟いた。「こんな汚いもの、ゴミだね。」どんな意図で言われたか定かでないが、私にはその言葉が自分にも向けられていると感じ、傷ついた。
   
私にはそのゴミのような制作物が何故作られているかわかっていた。ゴミになった原因は、外国人クライアントとの戦いに敗れた結果であったのだ。決してクリエーターの能力ではないと。誰もが望んでゴミを制作しているのではないのだ。
  
  
クリエーターは入社した頃の私のように、外資にいても英語が話せない。当然クライアントと製作者の間には営業が立つ。営業の多くはクリエイティブのこだわりを理解し、丁寧にクライアントに説明してくれない。彼らは仕事がスムーズに、スケジュール通り、予算の中で進むことが大切である。だから妥協してしまう。
   
またもう一つは調査である。世界中に販売網を持つ企業は、広告する前に調査にかける。その結果の数値で全てを決めてゆく傾向にある。少しでもマイナスの要因があれば、その部分を修正してゆく。このような行為は広告物のエッジを丸くしてしまい正しいことを言っていてもまるで興味を引き起こさないフラットなものにしてしまう。
   
クライアントの多くは自社の広告がCMが溢れるクラスターの中で放映されることを忘れがちだ。極端な例だが、ある大手の洗剤会社の社長は、撮影されたCMフィルムを繰り返し見、ストップさせて、「ここまでの髪の流れはいいがこれから先はダメ」と言った。全く消費者を、CMが流れる環境を無視した発言であった。
    
私は自分の意図の許される希望の%を設定していた。ここまでは妥協しよう、ここからは戦う。また自分の思い通りの広告物を仕上げるためには、クライアントとの意思の疎通が大切で、そのためには外国人を説得するコツを習得することが必要なのだ。
  
入社して以来、向こう見ずで頑固な私は戦い続けて、やっと私なりの外国人攻略法をつかんでいた。と思っていた。
   
だから、できればそれをみんなに教えたり、サポートすることによって、会社全体の制作物のレベルをあげたい。そんな思いが私の中にあった。それが私の思い上がりであったかもしれないが、とにかく私はスタートした。


JWTワールドワイドのトップでアルバート・マニングの紹介記事を家庭画報に載せた。
    

JWT創立125周年のパーティで記念写真。  
    

お祝いにディレクターの黒田さんがくださった招き猫。32年間元気をつけてくれてます。