「アアナッテ、コウナッタ」~わたくしの履歴書~ 小池玲子ブログ

第38話 もう一つのアメリカ(2)

2021.05.01

仕事をすることがその国の、国民性を一番見せてくれると私は思う。仕事はある意味本音のぶつかり合いだから。
     
ノースウエストの人たちは素朴で実直なアメリカを見せてくれた。仕事は気持ちよく進んだが悩みが2つあった。


▲何かのパーティの後だったか。ノースウエストのチームと。ネクタイのおどけた人は、ノースウエストの広告担当副社長

一つは彼らにとって航空運賃がタダなこと。
そこでしょっちゅう呼ばれる。ZOOMのない時代。当時ノースウエストの本部はシアトルの郊外にあった。東京からシアトルまで約10時間。シアトル着朝8時の便で成田を発ち、そのまま会議に出席をし、翌日シアトル発朝8時の便で東京に帰るという出張が多かった。これは体力的に参った。
    
もう一つは、食事。
アメリカではビジネスディナーは滅多にしない。夜は家族との時間を大切にするから。夜ご飯は自分でなんとかしなくてはいけない。ホテルはオフィスのすぐ近くだが周りは荒野に近い。車がなければどこにもいけない。シアトルのダウンタウンまでは遠い。近くのモールまで歩いていくしかない。外に通じるホテルのドアーには「警告!外に出ると死ぬ!外は零下40℃」とある。
   
アメリカ流の食事にも悩まされた。例えば3日間の大きな会議でも、毎日出るのは牛、豚、鳥のバーベキューのバイキング。あとはポテトとオニオン。こっそり抜け出して怪しげな中華屋さんへ走る。ということもあった
  
    

もう一つのアメリカも見せてもらった。クライアントはコーチ。当時コーチは、日比谷に一号店を出したばかり。しかし、色の地味さ、革の厚さゆえの重さ、デザインの野暮ったさ、で、日本では苦戦を強いられていた。
 

▲初代の日本コーチのトップ。知的で素敵な方だったが、その後のコーチの方針と会わず離職。その後もおつきあいが続いた。
  
結果、伝統のコーチもアパレルメーカーの資本が入った。NYでの会議にも出席したが、会議は朝の8時から、超高カロリーのドーナツ付き。そこはまあ、映画の「プラダを着た悪魔」の世界であった。

上昇志向の強い美しい女性たちの群れは、何しろ人の言うことを聞かずに喋る、喋る、喋る。それも超スピードの英語で。その、他人を蹴散らす態度はどこから来るのか、NYで働く女性の多くは地方出身者が多いということもこの時知り納得。
  
  

厳しいアメリカの一面も見た。仕事で仲良くなったFCBのプロデューサーがなんと、ナイキの全世界の広告をコントロールするディレクターに就任。すごい栄転であり、多くの人が羨んだ。森の中のナイキの本社と湖畔の彼の豪邸に招待してくれた。
   
ナイキのオフィスで彼は、20個以上のモニターが並ぶ部屋で目を真っ赤にして仕事をしていた。彼に課せられたのは仕事ばかりでなく、健康をキープし、スマートな体になること。そのため体重を減らし、トレーニングをすること、毎日何マイルか走ること、などが義務付けられていると聞いた。要するに仕事で成果を出すばかりでなく理想的な体とスポーツすることを愛していなければいけないのだ。
  
彼は人間的にとてもいい人だったが、赤く充血した彼の目を見たときちょっと心配になった。一年後彼が解雇されたことを聞いた。体重を減らすことに失敗したのかどうか...。