「アアナッテ、コウナッタ」~わたくしの履歴書~ 小池玲子ブログ

第45話 外国人クライアントの「?」に答え続けて。

2021.11.05

私の35年間の外資系広告代理店の仕事を振りかえると、「日本人とは、日本人とは何?」の説明に多くのエネルギーを費やしてきたような気がする。
    
え!なんで、とみなさんビックリされると思う。日本人同士で仕事をしている場合は日本人の常識の上に立って、プレゼンも、会議も進められる。同じ土俵の上で仕事ができるのだ。
     
しかし私のクライアントは外資系であり、決定権を持つ人は99%外国人であった。そして広告制作の決定は外国人クライアントの承認が必要であった。
    
スイートテンダイヤモンドの企画をした時、当時ダイヤモンドは高価と思われていたので価格を10万円以下にすれば主婦は飛びつくとクライアントに説明した。が、イギリス人のクライアントは否定した。理由は旦那のOKが出ないとのこと。
    
なぜか、それは日本とイギリスの家庭内の給料の使い方の違いが問題であった。イギリス人の多くは夫が財布を握り、主婦には必要な経費しか渡していなかった。欲しいものがあれば旦那にお願いするのが常識であった。
     
私は日本の主婦は「へそくり」というものがあるから旦那の承認なしでこっそり買えると反論。で、日本の主婦の「へそくり」とはなんであるかの説明が必要になった。
    
日本は夫の給料は銀行振込で、主婦がそのほとんどをコントロールし、旦那はお小遣いをもらう立場であると説明。彼らイギリス人の男性にとってこの事実は目から鱗ものであっただろう。
   
結果的にスイートテンダイヤモンドのキャンペーンは大成功であった。日本の主婦の多くは自分で買ったスイートテンダイヤモンドを、夫からの贈り物と言って友人に自慢したのだ。
    
しばしばプレゼンテーションの場は、日本人と外国人との異なる文化背景が浮かび上がる場であった。クライアントと私の、感性と理論のぶつかり合い、または社会的習慣や生活様式とのぶつかりあいになった。
    
「日本は違うんです」といくら言っても、感性の違う相手には通じない。ケロッグのコマーシャルを作った時、コーンフレークは朝食べる。だからCMのトーンは爽やかな朝の雰囲気、ブルー系にした。が、それを見た社長は激怒した。理由は彼の朝の色はオレンジなのだ。「オレンジ色の力強い朝日が大平原を染める、それが朝だ。」と彼は言った。
   
外国人にとって理解できない日本人の感性。どうして?なぜ?彼らの疑問に答えない限り企画が通らない。次回は様々な方法で外国人にとって奇妙な日本人の感性・習慣を説明した例をお見せしたい。



▲たくさんのプレゼンテーションの書類。その時々の日本での流行も説明しなければならないテーマとなった。例えば、「ピンク・ピンク・ピンク」日本の若い女性はなぜピンクが好きなのか。とか「かわいい」とは一体なんなのかとか「サラリーマンとドリンク剤」とか、「日本の家庭生活」とか…