「アアナッテ、コウナッタ」~わたくしの履歴書~ 小池玲子ブログ

第46話 そばかすは罪?

2021.11.15

2000年のある日、私は一枚の写真を手に、唖然となっていた。そばかすだらけの女性の顔写真。その写真は、日本で新発売のニューブランドのモデルであった。
    
「これは使えない!」日本のクライアントも全くの同意見。早速パリの本社に連絡すると、「そばかす!それはバカンスを楽しんだ自然を愛する、裕福な女性の象徴!青白い顔はバカンスにも行けない貧乏人の顔だ!」その時、浮かんだのはファッションデザイナーの島田順子さんの顔。フランスでの生活が主体の彼女は日焼けしてそばかすだらけ。
 
いや、しかし、これではこの新ブランドは完全に失敗する。なぜなら、外資の化粧品がスキンケアの分野で成功を収めるのは至難の技。国産のブランドが基礎化粧品の分野では、絶対のシェアを占めていたから。

ヨーロッパでの成功で、自信たっぷりの、傲慢で思い込みの激しいフランス人に、どうしたら日本の女性の理想の肌を説明、説得できるか。

クライアントの性格、立場を考え、2つの方向からの説得が必要と考えた。
まず日本の化粧品の表現の現状を知ってもらう。実際の広告での説得が必要と考えた。

そこで、当時の女性向け雑誌2年分から、競合10社の広告モデルの写真をピックアップ。肌の色、顔の形、写真の撮り方を一つのデータにまとめた。

そのあと、なぜこのような肌が日本女性の理想の肌として、彼女らの心の中にあるかを、歴史背景をもって説明した。

日本の女性は長い間、肌の白いのは、美人の条件であると教えられてきた。日本のことわざ「色の白いは七難隠す」はまさにそれ。また節句のお雛様の顔、日本人形の顔、日本舞踊の踊り手の顔、皆、そこに特別な美しさの象徴として白い顔が演出されている。

日本女性の心の中に育まれてきた美白への憧れ、それは最近の流行でなく、長い間の歴史の上に培われた、ほとんど信仰に近い、動かし難いものであることを説明。
   
この2方向からの説得は功を奏し、モデルの変更が許可され、モデルセレクションに日本人が参加できた。結果ロンチキャンペーンはスムーズに滑り出した。
  
  
文化の違い、価値観の違う人たちと仕事をする場合、相手のことをよく研究し、通り一遍の説明でなく、相手にあったオリジナルな説得を試みるのが有効だと思う。これは同じ日本人にも通用する事と思う。

全てのことは手間暇かけないと通じない。たかが肌の色というなかれ。しかし、この頃は美白という言葉を避ける企業も出てきたという。時代は、うつりにけりな、なのである。


▲日経広告研究所報に4年にわたって書かせて頂いた。2002年から2003年「私の異文化コミュニケーション」
一年間、間を置いて2005年から2006年「私の異文化コンチェルト」
後でいくつかセレクションし、日経広告研究所から「ある女性広告人の告白」というタイトルで本にしました。