第47話 フランス人が見た日本人の美意識
2021.12.01
90年代のある日、若いフランス人の社長とこんな会話を交わした。
「日本人の美意識の原点は、WABIとSABIにあると言われて日本に来たが、自分は今の日本の美がどこにあるかわからない。」
私はこんな風に返した。
「侘び、寂びは今でも日本人の美意識の根底にある。ただあなたが見えないだけ。一緒に探そう。」
そんな会話の後で、私たちは日本人の美意識についてたくさんの雑誌や本の中から外国人の目線での、今の日本の美意識を探し出した。
外国人から見た、日本人の美意識は以下の5つに代表される。これが2人の結論。
◇ヴィジュアルプレゼンテーション(視覚)
日本人は目に見える効果・見た目を大切にする。日本料理はこの良い例。日本料理は2回食べると言われる。まず目で見て、その彩、形、盛り付けの美しさを堪能する。そしてやおら箸をつけ、その味と香りを楽しむ。
◇テクスチャー(触覚)
日本人にとって四季の変化は大切であり、その微妙な変化を、舌で、手で、肌で、楽しむ。季節によって、冷奴、湯豆腐と一つの素材を使い分け、木綿豆腐か、絹ごし豆腐、食感と温度の感覚を楽しむ。夏の木綿の浴衣、冬の絹のお召しが肌に触れる感触。
◇フラットネス・オーダー(垂直と水平の線が作る美しさ)
私は全く意識していなかったが、外国人にとって、日本の典型的な美のイメージの一つにオーダー(順列)を強く意識するらしい。
ブルーノ・タウトが日本を旅した時、東海道の列車の中から、日本の風景を見て、垂直と水平に構成された日本の家屋と自然の調和、その美しさに感動したと言われるが、障子や畳のレイアウト、すだれ、竹の生垣、全て規則正しい。
もう一つの特徴はフラットネスである、たたむときは一枚になる日本の着物、物を包む風呂敷、布団や屏風など、フラットネスは居住空間の変化も演出する、日本固有のユニークな感覚である。
◇ディテールとバリエーション
日本人は細やかなディテールに気を配り、色や形のちょっとしたバリエーションを楽しむ。どんな家庭でも、その食卓にはたくさんの異なる素材、形の食器が並ぶ。磁器あり、陶器あり、漆あり、ガラスあり。
◇ブライトネス
西洋と日本の光の根本的な違いは、それぞれの住環境で培われてきたもの。西洋の石造りの家屋は窓が比較的小さく高い位置にあり、そこからの光は一方向である。フェルメールの絵に見られるように。
一方、日本の家屋は解放部が南に向かった大きく開け、障子を開ければ光は天井の高さまで入ってくる全方向。日本の家屋が窓を大きく、灯も蛍光灯を多用し明るいのはその光の感覚を継承しているのかもしれない。
思いもかけない作業で私は今まで、当たり前と感じていた日本人の美意識に気付かされた。
今、このコロナ禍で、金継ぎを習う人が増えていると聞いた。侘び、寂びの心は生きているのではないか。
▲ちょっと高級な古伊万里を使った食卓。こんな贅沢ではないが一般の家庭でも、陶器やガラス、漆など、
それも形が違ったり、色が違ったりした食器が並ぶと思う。料理によってそれぞれ違う器が選ばれる。
見た目の美しさだけでなく、直接口をつける汁物には、熱が伝わりにくい漆が使われる。