第49話 外資の社長に仕えて
2022.01.18
私は3つの外資系広告代理店に勤め、深く関わった社長は11名。内、外国人9名。日本人2名である。
そもそも日本企業の社長と、外資の社長とでは、どこが違うか?
日本の場合は学歴や経歴が先に伝わる場合もあるし、多くは社内から昇進するので次期社長のプロフィールはつかめる。一方、外資の社長は海外の本社が指名し、その人が来日するまで、一体どんな人が来るか全くわからない。その結果、素晴らしく仕事のできる人や、びっくりするくらい常識に欠ける人が社長としてやって来る。日本人社員は甘んじてそれを受けるだけだ。その辺が全く違う。
私が社長の資質をあれこれ言うのはおこがましいことかもしれないが、9名の外国人社長を通して、日本人に対する彼らの考え方を嫌という程経験させてもらった。それは日本の社会、または経済の動向、あるいは世界で、日本人がどのように見られているかをも感じさせるものであった。
外国人社長は2種類に分けられる。
一つは、任地の日本に興味があり、日本人を理解しようと努め、その弱点、良い点を把握し、日本でのビジネス拡大を考える。もう一方は、完全に顔が本社の方に向いている。自分の任期中の売上高の減少のみを恐れる。日本人を理解する気がない。現地人として上から目線で付き合う。
この二つは年齢も影響していた。前者は若く行動的。後者は定年間近、本国ではそれなりの功績を挙げた人。年金生活前の最後のお勤め、という気分でやってくる。
9名の外国人社長の中で、私が信頼し、私の仕事を正当に評価してくれたのは、残念ながら2名だけであった。もちろん前者。この人たちとは同じ目的に向かって仕事ができたし、クリエイティブを評価してくれた。
残り7名のうち、一見紳士で経歴も素晴らしい社長が、臆面もなく責任を転嫁した時にはショックを受けた。
人間の価値は、その人が窮地に追い込まれた時の行動によって決まる。ある仕事で、カリブへロケがあった。その社長はロケに同行することを希望したので同行してもらった。当然社長であるからロケの最高責任者として。
撮影した映像は素晴らしかったが、クライアントからクレームがついた。その時彼は、クライアントを説得することなく、スタッフのせいにして逃げた。その後も彼は、クライアントに関して問題が起こると、常にクリエイティブを非難した。それが彼の責任逃れの手であった。
こんな社長を上に持つと大変なことが起こる。私はクリエイティブの社員を擁護するため、常に臨戦体制を維持しなければならなかった。身内に敵を抱えている状況であった。
もっとひどい社長もいた。それはこの次の話に。
北京でのセミナーの参加者と一緒に。
その頃中国では、ネスレーとリーバがアイスクリームのシェア争いをしていた。
パブリシスのネスレー担当トップがフランスから参加。中国人の社員にネスレーのアイスクリームの優位点を講義。私も広告について講師として参加。
1990年代の中国は、びっくりすることだらけ。
大通りをスイカを積んだ荷車をひく馬と、最新型のベンツが並走していた。
航空券は全て手書き、JALのカウンターはちょっと裏をのぞいたら、木でできていた。
発着を告げる大きなスクリーンは何も写っていなかった。早く日本に帰りたいと願った。